秋葉原事件、「少年A」14歳の肖像/Akihabara massacre, Kobe child murders

 秋葉原事件/中島岳志著

 2008年6月8日、加藤智大被告(当時25歳)は東京秋葉原の交差点に2トントラックで突っ込み5名(3名死亡、2名負傷)をはね、停車後ダーガーナイフで通行人12名(4名死亡、8名負傷)を次々に刺した。その後の裁判では1審2審とも死刑判決だったが、事件当時精神障害の疑いがあるとして現在上告中。

 この事件のルポルタージュ『秋葉原事件』は、加藤の生い立ちから事件後までを家族、友人、知人、教師、同僚、被害者、本人等の証言、掲示板への書き込み等をもとに駆け足で綴っている。また加藤の証言を元に、ネタとベタ、アピール等、重要だと思われるキーワードの解読を試み、事件に至った経由を推測している。

 裁判で加藤は、掲示板でのなりすましや荒らしに対するアピールのため事件を起こした、とも取れる発言をしている。掲示板は大切な場所であった、本当に荒らしをやめて欲しかった、事件をおこせばそれが相手に伝わると思っていた、と。

 そのアピールと無差別に12名を殺傷する行動の間には飛躍があり、直接は結びつかない。それは本書を読んでも同じだが、事件以前の「アピール」との関連で読み進めていくと、少なくとも、幼少期から犯行日に至るまでに、ひとつの流れのようなものがある、それは著者の描いたストーリでもあるが、的外れというわけではなさそうだ。

秋葉原事件 加藤智大の軌跡
中島 岳志 著
ISBN:9784022617668
定価:735円(税込)
発売日:2013年6月7日
A6判並製   280ページ
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14984

加藤智大を事件に駆り立てたものは何だったのか? 事件の動機として、「派遣切り」になりそうになったから、あるいは、彼がのめり込んでいた携帯の掲示板で「荒らし」や「なりすまし」が出たから、という説も出たが本当にそうなのか。気鋭の政治学者が裁判を傍聴し、彼の故郷や職場周辺を訪ねて、事件の背景を探る。

 

 「少年A」14歳の肖像/高山文彦著

 もう一冊。秋葉原事件の犯人と同い年と知り、共通点はあるのか?と気になり手にとった。

 1997年2月から5月にかけて、犯人である少年(当時14歳、犯行声明文には酒鬼薔薇聖斗の署名)は小学生の女児4名(1名死亡、3名負傷)、男児1名(死亡)を殺傷した。さらに男児の遺体を切断し、頭部を声明文とともに通っていた中学校の正門に置いた。逮捕後、医療少年院で治療(約4年)を受け、中等少年院に約2年収容された後、2004年に仮退院、2005年には本退院した。

 『「少年A」14歳の肖像』も『秋葉原事件』と同じように、生い立ちから事件後までを証言をもとに綴っているが、精神分析の内容、現場の取材により多くがさかれている。また所々、文学的、詩的な表現もみられる。

 共通点はある。2人とも幼少期に母親から厳しいしつけを受けていたこと、自己中心的な考え方をしていたこと。けれど逆に言えばそれしかなく、同じような環境、性格の人間がごまんといることを思えば、それが原因とは言えない。一因とは言えるが。

 一方、違いははっきりしている。神戸連続児童殺傷事件の犯人は、殺傷の際には性的快楽が伴っていたと証言している。それは小学生の頃から始まり、猫殺し、少女への暴行、殺傷、少年の殺害と死体損壊に至った。14歳という性的に多感な時期を迎え、欲求がエスカレートしピークに達したのだろう。捕まらなければ同じような事件を起こした可能性が高い。

「少年A」14歳の肖像
高山文彦/著
SBN:978-4-10-130432-8
発売日:2001/11/01
http://www.shinchosha.co.jp/book/130432/

一億人の心臓を鷲づかみにした「神戸連続児童殺傷事件」。審判は終わった。真実は詳らかにされることなく、少年Aは闇の中に消えた――。彼の内なる「酒鬼薔薇聖斗」はいつ、どんな家庭で産声をあげたのか。母親は魔物の誕生に気付かなかったのか。第一級捜査資料に綴られた生々しい「肉声」。少年が初めて語る狂気と虚無、そして両親の慙愧……。今ようやく浮き彫りとなる驚愕の全貌。