家庭の医学 / Excerpts from a Family Medical Dictionary

文章は日記や記録の類に近く、話は時系列に沿って進んでゆく。
作家独自の感性は抑えられ、最後の時間を逃さぬように簡潔に的確に綴られてゆく。

ある種の抑制があり、それは親に対峙した際に子が相対的に一般的にあろうとする気遣い、優しさ、愛情を思わせる。

しかし、死を契機に時空を超えて飛躍する感覚に感銘を受けた。

家庭の医学
柴田 元幸 訳 / レベッカ・ブラウン 著
ISBN:9784022643605
発売日:2006年3月7日
A6判並製 176ページ
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=7273

いまもっとも身近な出来事でありながら本格的な小説がなかった「介護文学」が誕生。人気のアメリカ小説家、レベッカ・ブラウンが、癌に冒された母親の入院、手術、治療、そして看取るまでを描く。「生きているあいだ、母はいろんなことを心配した。……私たちは母に言った。何もかもちゃんとやっているから、もう休んでいいのだと」──。痛々しくも崇高な作品。

体の贈り物/The Gifts of the Body

母の呼吸が止まったと聞いた時、文字通り崩れ落ちた。しかし肉体がいよいよ世界から消える時は、それ以上の衝撃だった。

その時のことを思い起こすと、意外だ。そんな風になるなんて想像していなかった。

死体は眠っているようだった。そんな風に感じた。
話しかけたり、音楽を聞かせたりした。
同じ部屋で眠り、穏やかな気持ちで接して、親密な時間だった。

棺桶を閉める間際、顔に触れると、とても冷たくて、次の瞬間経験したことのない感覚、肉体的な激しい衝撃を受けた。今まで接してきた死とは少し種類が違っていた。あの冷たさ。奇妙な欠落。

 

10代前半から読書は習慣化していて、しかし一度に読み切ることはほとんどなく、ほんの数ページを生活の中で少しずつ読み進めていくというペースだ。
だから、小説の場合、タイミングがあわなければ読めない。
こんな風に書くのはおかしいかもしれないが、あの時もっとも身近で関心のあること、そしてそれ以外は受け付けられない状態で、この本を手に取った。

11のピースからなる連作小説。各章は汗の贈り物、充足の贈り物など・・・の贈り物で統一されている。それらを含むタイトルは「体の贈り物(The Gifts of the Body)」なのだが、「体」という単語の選択は、この小説をよく表していると思う。

簡潔で平易な文章。描写の中にときおり差し込まれる繊細で鋭い感覚と正確な言葉。

誰かが死ぬと、いつもそこに穴がひとつできた。穴はいつも人々の真ん中にあった。

 

体の贈り物
レベッカ・ブラウン/著、柴田元幸/訳
ISBN 978-4-10-214931-7
発売日:2013/07/31
http://www.shinchosha.co.jp/book/214931/

食べること、歩くこと、泣けること……重い病に侵され、日常生活のささやかながら、大切なことさえ困難になってゆくリック、エド、コニー、カーロスら。私はホームケア・ワーカーとして、彼らの身のまわりを世話している。死は逃れようもなく、目前に迫る。失われるものと、それと引き換えのようにして残される、かけがえのない十一の贈り物。熱い共感と静謐な感動を呼ぶ連作小説。