血盟団事件

 一章は井上日召の少年期、自暴自棄でもあった青年期、信仰・神秘体験(神がかり)を経て、茨城県大洗に流れ着き自らの手で国家改造を行う決意をするまで。

 二章は井上のもとに集まった地元農村の青年たちが感化され、命を捨てる覚悟で革命を目指し集団化するまで。

 と、ここまではスラスラと読み進めていたのだけど、場所を東京に移しエリート学生、陸軍・海軍の若者達、大物思想家等が登場する三章あたりからスピードが落ちて、ゆるゆると読んでいたら、ISIL(イスラム国)による日本人ジャーナリスト人質事件が表面化した。またそれに対する政府の対応や報道のあり方が議論になっていった。

 この本でも若干言及されているが、近頃の世相は戦前のそれに似ていると言われることがある。そっくりとまでは言えないとしても、たしかに10年前よりは相当似ており、さらに5年前と比べても近づきつつあるのは確かだと思う。現世社会への嫌悪と自らの命を惜しまぬ正義感が結びつく時、いつ何時再びこの国でも起こりえる、と実感を持って想像することができる。

 

 三章、四章は事件の全容を描くために登場人物が増えて若干散漫な印象を受けたが、後の 五・一五事件への連なりが明らかになっている。
 事件以後はあとがきにある程度で記述が少く、欲を言えばその先も読みたかった。

 

血盟団事件
中島岳志 著

ページ数 400ページ
判型・造本・装丁 四六判 上製 上製カバー装
初版奥付日 2013年08月10日
ISBN 978-4-16-376550-1
Cコード 0095
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163765501

「血盟団事件」は、日本史の教科書に出てくるほどの大事件でありながら、これまで五・一五事件や二・二六事件の様には取り上げられてはきませんでした。しかし、著者の中島氏はこの事件の中にこそ当時の若者たちが抱えた苦悩が隠されているのではないかと考えました。残された供述調書や回想録を精査する中で浮かび上がってきたのは、 格差問題や就職難、ワーキングプア、社会からの孤立感など現代の若者にも通底する悩みの数々でした。

資料を読むだけではなく中島氏は数々の「現場」を歩くことで、本書に厚みを加えます。事件現場となった東京・三井銀行本館をはじめ、茨城・大洗、群馬・川場、鹿児島、そして旧満洲の遼陽まで――足跡をたどる旅は、海外まで広がりました。

事件の鍵となる人物の周辺取材では、井上涼子氏(井上日召娘)、團紀彦氏(團琢磨曾孫)、中曽根康弘元首相(四元義隆と親交があった)へのインタビューを行ないました。また元血盟団のメンバー川崎長光氏に話を聞くこともできました。

海軍士官、エリート帝大生、定職に就けない若者など交わることのないはずだった人々が、カリスマ宗教家の井上日召と出会い凶行に走る――。
事件後八十年を経てその真相に迫ったノンフィクションです。