シティズンズ・バンド/Citizens Band

 シティズンズ・バンドはシドニーの作家アンジェリカ・メシティの映像作品で、四方の壁のスクリーンに、演奏する4人の男女がそれぞれ順に映し出される。その2人目がMohammed Lamourie。カシオのキーボードを肩にのせ、4本の指で細かなアルペジオを奏でる青年。壊れてしまったのか、黒鍵はセロテープで簡易的に補修されている。解説によると場所はパリのメトロで、青年はアルジェリアからの移民らしい。民謡とポップスの混交を飾り気なしに奏でている。血が通うとはこういうことか、思わず感動し落涙した。簡素な伴奏、素直な発声が素晴らしく、もし何かしらの作品がリリースされているならば、それも是非聴いてみたいと思った。その他3人の演奏もなかなかで、作家のセンスの良さがうかがえる。最後には4人の演奏のミックスと、クローズアップでピントのぼやけた夜の街明かりが流れていく。

…本作は、空間に正方形に配された4つの画面それぞれに、移民のパフォーマーが、自らが暮らす都市の一角で音楽を奏でる様子が鮮やかに映し出される。カメルーン出身のパーカッショニストは、パリの室内プールで水面を舞台に手で見事なドラミングをみせる。アルジェリアからパリに移民してきたストリート・シンガーは、メトロで壊れかけたカシオのキーボードを肩にのせ哀歌を歌う。モンゴルがルーツのホーメイ歌手はシドニーの街角で胡弓を奏でながら独特の声を響かせ、スーダン出身でブリスベンに暮らすタクシー運転手は、運転席で哀愁漂う口笛で曲を奏でる。音楽と共に生きる喜びと移民として暮らす複雑な現実の気配を漂わせながら、4名の圧倒的なパフォーマンスは、文化間の移動によって失われゆく旋律と歴史という悲しい現実を示唆しつつ、観る者を魅了する。

-「あいちトリエンナーレ2013」より-

Performers:
Loïs Géraldine Zongo, Mohammed Lamourie, Bukhchuluun (Bukhu) Ganburged, Asim Gorashi

Mohammed Lamourie
Mohammed Lamourie

-「ANGELICA MESITI」WEBサイトより-

同作品のダイジェスト

‘Citizens Band’ by Angelica Mesiti from Angelica Mesiti on Vimeo

 

 おまけ。下の画像は展示会場の近くにある納屋橋を名古屋駅方面に渡ってすぐ、左手にあるビル。風俗店が入居する雑居ビルの壁面に描かれた地球と鯨の親子。色あせた絵、とぎれとぎれに光るネオンが都市の風情を醸し出していた。

納屋橋近くのビルに描かれた鯨の親子